小規模多機能型居宅介護の対象者を知ってサービスを上手に利用する方法
「介護サービスを利用しよう」と思ったときに、まずチェックしなければならないのは「対象者」です。対象者はそれぞれサービスによって異なるため、利用する方が対象者に該当するかを確認する必要があります。
そしてもし対象者に該当しても、利用回数や必要なサービスによっては別なサービスの方が適していることがあります。ここでは、小規模多機能型居宅介護の対象者と利用環境、疑問点などをご紹介します。
小規模多機能型居宅介護とは
小規模多機能型居宅介護とは、通所・訪問・宿泊の3つを組み合わせて提供する介護保険サービスです。住み慣れた地域で介護サービスを受けながら生活できるため、人気を集めています。小規模多機能型居宅介護の具体的な特徴を確認していきましょう。
小規模多機能型居宅介護は「地域密着型サービス」
小規模多機能型居宅介護は、「地域密着型サービス」と呼ばれています。地域密着型サービスとは、在宅で生活する人を対象として地域住民に介護サービスを提供するため、環境に適応するのが苦手な方でも安心して利用できます。
介護事業者の指定や監督は市区町村が行い、地域住民と交流が持てる立地であることが多い傾向です。利用する方のニーズに応じて「昼食だけ」「午前中だけ」という使い方ができ、顔馴染みのスタッフが対応してくれるため安心・便利なサービスです。
市区町村を超えてサービスを利用できることがある
小規模多機能型居宅介護は、市区町村を超えてサービスを利用できることがあります。小規模多機能型居宅介護は、原則として地域住民を対象としたサービスですが、「市区町村間で利用の協議」が行われ、同意が得られた場合に関してはサービスを受けることが可能です。
具体的には、事業所がある市区町村の介護保険料が、もとに住んでいた介護保険料よりも高かった場合には、住民票を移しても同じ介護保険料でサービスを受けることができます。被保険者が市区町村の福祉課に申出て、手続きをする必要があるため、注意しましょう。
小規模多機能型居宅介護の対象者と利用環境
小規模多機能型居宅介護の対象者と、その利用環境・背景について確認してみましょう。どのような方が利用するのかが明確になれば、より適したサービスを受ける参考になりますよ。
小規模多機能型居宅介護の対象者
小規模多機能型居宅介護の対象者は以下のようになっています。
- 要支援1~2,または要介護1~5の認定を受けている方
- サービスを受ける事業所と同じ自治体に住民票を置く方
- 65歳以上の方または40歳以上で特定疾病により介護を受けている方
対象者に該当するか迷ったときには、ケアマネージャーのほか、地域包括支援センターや市区町村の福祉課でも対応しているため、相談してみましょう。利用する方の状況によっては、より適したサービスを提案してくれることもありますよ。
小規模多機能型居宅介護の受給者は要介護1~3が多い
厚生労働省が令和2年にまとめた「小規模多機能型居宅介護の要介護度別受給者数」を確認すると、要介護度1~3の方の利用が多い事が分かります。
平成21年のデータと平成31年のデータを比較すると、全体数が3倍以上にわたって増加していることが分かりますが、要介護度1~3の方の利用が多いという内訳は変わっていません。要支援1~2、要介護4~5の方は小規模多機能型居宅介護以外のサービスを検討する方が多いと予測できるため、多角的な視点で情報収集することをおすすめします。
対象者が小規模多機能型居宅介護の利用に至った理由
厚生労働省が令和2年にまとめた「小規模多機能型居宅介護を利用することになった理由、直前に使っていた介護サービス」を確認してみましょう。
利用することになった理由としては、「通い、訪問、宿泊を複合的に提供してくれるから」「柔軟さの必要性」「臨機応変な対応」が多くなっています。小規模多機能型居宅介護の特徴を反映した結果といえるでしょう。
直前に使っていた介護サービスとしては、多い順に「通所介護」「上記のサービス利用はない 」「訪問介護 」となっています。これらのことから、直前に「在宅」で介護を受けていた方の利用が多い事が分かります。
小規模多機能型居宅介護は利用定員数が決められている
小規模多機能型居宅介護は、利用定員数が決められています。アットホームな環境で、きめ細やかなサービスを提供するためです。それぞれ以下のようになっています。
1事業所あたりの登録人数 | 29名 |
1日あたりの通所サービスの定員数 | 18名 |
1日あたりの宿泊サービスの定員数 | 9名 |
訪問サービスに関しては定員数の定めがなく、利用する方の身体状況や希望によるとされていて、通所サービスにおいては15名以下、一定基準をクリアしている場合は18名以下とされています。
利用料金は毎月定額制
小規模多機能型居宅介護の利用料金は、毎月定額制です。個別で契約した訪問介護や通所介護には利用時間に応じた料金がかかりますが、小規模多機能型居宅介護は時間を気にせず利用ができます。利用者負担額が1割の方は以下の通りです。
要介護度 | 1ヶ月当たりの利用者負担額 |
要支援1 | 3,403円 |
要支援2 | 6,877円 |
要介護1 | 10,320円 |
要介護2 | 15,167円 |
要介護3 | 22,062円 |
要介護4 | 24,350円 |
要介護5 | 26,849円 |
要介護度が高くなると利用料金が高くなりますが、小規模多機能型居宅介護ではこれ以上になることはありません。しかし以下のような+αの費用が加算されるため、「利用者負担額=基本料金」と考えるとスムーズです。
施設によって加算費用は異なる
上記の基本料金のほか、施設によって加算費用が生じます。施設ごとに内容が異なるため、事前に確認しましょう。
初期加算 | サービス利用日から30日以内の期間でかかる費用。 |
認知症加算 | 認知症がある方にかかる費用。 |
総合マネジメント体制強化加算 | 地域や職種で連携しながら介護計画を見直すためにかかる加算。 |
訪問体制強化加算 | 訪問担当の常勤2名以上、事業所の1ヶ月あたり200回以上の訪問回数を満たした場合にかかる加算。 |
ほかにもスタッフに介護福祉士の割合が多かったり、看護職員がいたりする場合などに付く加算もあります。複数の加算がかかると大きな額になることもあるため、注意が必要です。
全額自己負担になるその他費用
定額料金、加算費用のほか、全額自己負担になるものがあります。以下のものは全額自己負担になり、施設や利用状況によって変動するため、どの程度の額かを事前に知っておくと安心です。
- 食費
- 宿泊費
- おむつ代 など
施設によってはおむつや歯ブラシの持ち込みが可能なことも。利用回数にもよりますが、施設に確認してどちらが費用を抑えられるか検討しましょう。
小規模多機能型居宅介護のメリット・デメリット
小規模多機能型居宅介護のメリット・デメリットをみていきましょう。利用する方の希望にしっかり耳を傾けながら、検討することをおすすめします。
メリット
小規模多機能型居宅介護は、以下のようなメリットがあります。当てはまるものがあれば、小規模多機能型居宅介護を検討しても良いでしょう。
- 月額定額制のため、時間の制限なくサービスを受けることができる。
- 利用する方のニーズに合ったサービスを受けられる。
小規模多機能型居宅介護は利用定員数が定められているものの、定額制であることから時間を気にする必要がありません。また利用する方の都合によって、通所・訪問・宿泊の3つのサービスをスポットで利用することもできます。
デメリット
小規模多機能型居宅介護は、以下のようなデメリットがあります。契約の前に十分に理解しておきましょう。
- 現在利用する訪問介護やデイサービスなどは併用できない。
- ケアマネージャーを変えなければならない。
- サービスの利用人数に制限がある。
- サービス利用回数が少ない場合には、割高になることがある。
小規模多機能型居宅介護を利用するには、環境の変化を受け入れなくてはなりません。どうしても現在利用する施設やケアマネージャーを変えたくない場合には、小規模多機能型居宅介護を利用することはできません。利用人数の制限があることから、利用する方の希望通りにサービスを受けられないことがあります。
利用対象者から多い質問
利用対象者は、以下のような疑問・質問を持っていることが多いです。利用を検討する方のケースと比較して確認していきましょう。
Q1:それぞれサービスを契約する方が安いのでは?
小規模多機能型居宅介護は月額定額制なので、どちらか安くなるのかはサービスの利用回数によって異なります。
小規模多機能型居宅介護は、通所・訪問・宿泊の3つのサービスを提供します。通所サービスしか利用しない方なら、それぞれ契約する方が費用が抑えられるのでは、と考える方もいるでしょう。
具体的には、要介護1で1回あたり1,000円の自己負担額が生じる施設を利用する場合、10回利用すると10,000円になり、「利用料金は月額定額制」で記した表と比較すると、それぞれの契約の方が安くなります。10回以上利用すれば、小規模多機能型居宅介護の方が安いといえますが、気になる場合は、1回あたりの料金、1ヶ月あたりの利用回数から比較・検討してみましょう。
Q2:他サービスとの併用は可能か?
併用可能なサービスと併用不可能なサービスがあり、以下のようになっています。
併用可能 | 併用不可能 |
訪問看護 | 居宅介護支援 |
訪問リハビリテーション | デイサービス |
居宅療養管理指導 | デイケア |
福祉用具貸与 | ショートステイ |
住宅改修 | 訪問介護 |
訪問入浴介護 |
併用不可のサービスは、3つのサービスを提供する小規模多機能型居宅介護でカバーが可能と判断されています。
Q3:契約日から費用が発生するのか?
小規模多機能型居宅介護の費用は、サービスの利用開始日から発生します。「3つのいずれかのサービスを最初に利用した日」ということになり、契約日からではないため注意しましょう。
月の途中で契約を終了した場合には、日割り計算になります。宿泊を利用する際には、安い部屋を選んだり備品を持ち込んだりすることが可能な施設があるため、費用を抑えるための軽減制度や方法を一度確認することをおすすめします。
条件を確認して対象者に見合ったサービスを選択しよう
小規模多機能型居宅介護は、柔軟性が高く使い勝手が良い介護サービスです。「対象者」だけで判断するのではなく、利用する方の身体状況や考え方を聞いて十分に納得した上で契約することをおすすめします。
「自宅を拠点としてさまざまなサービスを顔見知りから提供してもらえる」ことは、安心につながります。利用する方はもちろん、介護者にも無理のない生活を送れるようなサービスを選択しましょう。