フレイル予防を生活に取り入れて人生をもっと楽しむ方法
日本の平均寿命は年々伸びており、令和2年の厚生労働省の調査によると、男女ともに80歳を超えています。同時に「フレイル」に陥る高齢者も多く、いかに健康寿命を延ばすかが課題になっています。
しかしフレイルは、早期に介入すれば元の健康状態に戻すことが可能です。本記事では、フレイルを予防するための方法と、具体的な対応についてご紹介します。
フレイルとは
「フレイル」とは、2014年に日本老年医学会が提唱した概念で、比較的まだ新しい言葉です。どのようなものかを確認していきましょう。
加齢で心身が老い衰えた状態
フレイルとは、英語の「Frailty(フレイルティ)」が語源になっています。加齢に伴って心身が衰えた状態を指し、日本語では「虚弱」「老衰」「脆弱」といった意味を持ちます。
具体的には、運動機能や認知機能、慢性疾患などによって生活機能の維持が難しくなり、悪化すると介護が必要な状態に移行します。フレイルは、健康な状態と介護が必要な状態の中間と捉えることができます。よって「予防」や「早期の介入」が重要になるのです。
フレイルは死亡率の上昇・身体能力の低下につながる
フレイル状態に陥ると、死亡率の上昇、身体能力の低下などを引き起こします。病気に罹患しやすくなるとも言われていて、身体的にも精神的にも自身でコントロールすることが困難になります。
たとえば健康な人なら数日で回復するような風邪でも、フレイル状態の方は肺炎を引き起こしたり、入院が必要になれば環境に適応できず情緒不安定になったりすることも。転倒がきっかけで寝たきりになり、フレイルに陥るということも多いため、日頃から家族やかかりつけ医が「変化」に気を配れる体制を取っておきましょう。
フレイルの評価方法
フレイルは、以下の5つのうち3つの症状が当てはまると「フレイル」と判断されます。
- 歩行速度の低下:加齢に伴い運動器や心肺機能の低下、脳や神経の病気などから歩行速度が低下することがある。
- 疲れやすい:心や身体の病気が原因で疲れやすくなることがある。
- 活動性の低下:退職や環境の変化によって意欲・活動性が低下することがある。
- 筋力の低下:加齢以外にも栄養不足や、病気によって筋力が衰えることがある。
- 体重減少:消耗性疾患や悪性腫瘍などが原因で体重が減少することがある。半年で5%以上の体重減少は、検査の必要性がある。
高齢者は、服用している薬が原因で上記の症状が現れることがあります。まずはかかりつけ医に相談をしましょう。
フレイルを予防するには
フレイルの予防には、以下の取り組みが効果的といわれています。ポイントは、衰えがはじまる40代から早めに取り組むこと。隙間時間を利用して、できることから始めてみましょう。
ポイント1:栄養管理をする
フレイル予防には栄養管理が効果的と言われています。具体的には、低栄養による「やせ」を防ぐことを意識しましょう。1日3食の食事は、主食・主菜・副菜を準備し、規則正しい時間帯で摂るようにします。
とくに筋肉のもとになる「たんぱく質」が不足する傾向にあります。たんぱく質は以下のものに多く含まれています。
- 豚肉・鶏肉
- 青魚
- 納豆
- 卵
- 豆腐
- 牛乳
- チーズ
運動量が少ない方でも50g~100gのたんぱく質が必要になるため、一度食生活を見直してみましょう。
ポイント2:身体活動を意識する
フレイル予防には、身体活動を意識しましょう。栄養管理に加えて身体活動を意識して生活すれば、より筋肉量の減少を防ぐことが可能です。
具体的には70歳以上の1日の平均歩数は男性で5,500歩、女性で4,900歩というデータがあり、15分~20分の運動が推奨されています。体力に自信がある方は活動強度が高い運動を取り入れても良いですが、無理をせず継続できる範囲の運動が良いでしょう。
家事や育児も家庭内でできる運動です。料理や皿洗い、掃き掃除など積極的に実施しましょう。歩数計の着用や趣味に没頭するのも、身体活動のきっかけになります。
ポイント3:社会参加をする
フレイル予防には、社会参加をすることも効果的です。高齢者は病気やケガのほか、配偶者や友人などの喪失をきっかけに社会とのつながりを失うことが多いからです。社会とのつながりが断たれると、食欲低下や栄養の偏り、筋力低下などの症状を引き起こすことがあります。
よって可能であれば、社会とのつながりを維持することをおすすめします。「2018年版 高齢社会白書」によると、高齢者の就労状況は以下のようになっています。
年齢 | 男性 | 女性 |
60~64歳 | 79.1% | 53.6% |
65~69歳 | 54.8% | 34.4% |
自身の身体状況と相談しながら、就労やボランティア、自己啓発活動などで「人との関わりを持って楽しむこと」を意識しましょう。
ポイント4:歯の健康を保つ
歯の健康を保つこともフレイル予防に効果的です。フレイルのひとつとして、口腔内の加齢にともなう変化を「オーラルフレイル」と呼び、喉や口周りの筋肉が衰え、噛んだり飲み込んだりすることが難しくなる状態があります。
オーラルフレイルは40歳代後半から注意が必要で、生活の中で「できること」を意識すると効果的です。楽しみながらできる予防法として、カラオケや吹き矢、人とのおしゃべりなどがあります。
前段階の症状として以下の症状があるため、これらの症状が現れたら、歯科医院に相談しましょう。
- 食べこぼしが多い。
- 硬いものが食べられなくなった。
- 口の中が乾燥する。
- 口角が下がった。
自治体によっては、訪問歯科診療サービスや通所口腔ケアサービスを行っているため、一度確認してみるとよいでしょう。
フレイル予防になる具体的措置
具体的なフレイル予防の措置を、身体状況別にご紹介します。
Q1:すでに持病がある場合はどう対応したら良い?
すでに持病がある場合には、第一に「持病をコントロールする」ことがフレイル予防になります。フレイル予防は上記の通り、筋力低下を防ぐため運動療法が有効だからです。
持病のコントロールが適切にされていれば、「身体を動かそう」「社会参加をしてみよう」という気持ちになります。一方で持病のコントロールができていない場合には、フレイルを悪化させるという事態になってしまうことも。
持病がある方は、定期的な受診・投薬・処置を受け、いつもと違う症状があったらかかりつけ医に相談しましょう。前向きに「身体を動かしたい、何かをしたい」という気持ちを引き出すことがポイントです。
Q2:運動が苦手な場合はどうすれば良い?
運動が苦手な場合には、強度が低い「その方に合った継続できる簡単なもの」を取り入れましょう。「運動」というと、「外へ出て身体を動かさなければならない」と考えがちです。
しかし、屋内で「運動になるものを探す」と視点を変えてみるのです。
- ベッドの上で足を動かす。
- 椅子から立ったり座ったりを繰り返す。
これだけでも立派な「運動」です。可能であれば、徐々に運動強度を高めて、室内歩きからウォーキングに移行しましょう。
焦る気持ちは分かりますが、無理は禁物です。筋力が十分についていない状態で、強度が高い運動を行うと転倒やケガのもとになります。適切な栄養管理とセットで筋力をつけることからはじめましょう。
Q3:フレイルと感染症は関係がある?
フレイル状態にある方の場合、感染症にかかりやすくなります。ちょっとした風邪でも入院したり肺炎を引き起こしたりして、寝たきりになってしまうこともあります。
フレイル状態になくても、高齢者は一般的に免疫力が低下しているため、適切なタイミングでインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンを接種しておくと良いでしょう。
医師の許可があれば、昨今流行しているコロナウイルスワクチンもフレイル予防になります。ワクチンの種類や身体状況、普段飲んでいる薬によっては、「接種ができない、期間を空けなければならないことがある」ため、持病がある方は必ず医師に相談しましょう。
フレイル予防を意識して健康寿命を延ばそう
今後ますます高齢者の増加が見込まれる現代社会においては、いかに健康寿命を延ばすかがカギになります。健康寿命を延ばすことができれば、自身は人生を謳歌でき、社会全体としては「介護・医療」に費やす予算・人材を抑えることができます。
フレイルは適切なタイミングで正しく介入すれば、予防・改善が可能です。少しでも身体状況に変化を感じた時には、迷わずかかりつけ医に相談することをおすすめします。気負い過ぎずに、「できることを続ける」気持ちで、健康寿命を延ばす努力をしてみてはいかがでしょう。