歩行器の種類と選び方|ポイントを押さえて安全と使いやすさにつなげよう
歩行器は、足が動きにくい方が歩くのを助けるための道具で、動作を安定させて行動範囲を広げるメリットがあります。しかし、合わない歩行器を選ぶと、転倒につながるリスクがあるため、ご本人に合ったものを選ぶのが重要です。
とはいえ、「どれが合ってるの?」「歩行器の種類がたくさんありすぎてよくわからない」と悩まれる方がいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで本記事では、歩行器の種類とおすすめの人、歩行器と似た働きをする歩行補助具との比較、介護保険を利用して安く利用する方法について解説します。
ご家族の歩行を安定させて、安全に、かつ行動できる場を広げるためにお役立てください。
歩行器には3種類ある
歩行器は4本の脚からできていて、歩くのをサポートする道具です。歩行器は、主に以下3つに分かれます。
- 固定型歩行器
- 交互型歩行器
- 前輪付き歩行器
使用する方の身体状況や使用する場所によって、合った歩行器が異なります。種類ごとの特徴や、利用がおすすめの人について見ていきましょう。
固定型歩行器
固定型歩行器は、持ち上げて使う歩行器です。「持ち上げ型歩行器」「ピックアップ型歩行器」とも呼ばれ、以下のように使います。
- 両手で歩行器を持ち上げて前に移動させる
- 移動させた歩行器の持ち手で体重を支える
- 一歩ずつ足を前に出す
固定型歩行器は、いったん両手で歩行器を持ち上げる必要があります。そのため、手(手首や肩、肘など)の筋力や握力が、ある程度保たれている方に適しています。
上記のように、3つの動作で使用するのが基本で、リズムがつかみやすく、杖よりも安定感があるのです。1歩ずつ確実に進むため、歩く速度がゆっくりの方でも使いやすいといえます。
小さな段差であれば、乗り越えることもできるため、段差が多い場所で利用したい場合にもよいでしょう。
交互型歩行器
交互型歩行器は、少しずつ移動させながら使う歩行器です。見た目は固定型歩行器と似ていますが、左右のフレームを片方ずつ、別々に動かせる点が異なります。
動かす順番は、以下の通りです。
- 右側歩行器を前に出す
- 左足を前に出す
- 左側歩行器を前に出す
- 右足を前に出す
交互型歩行器は、歩行器の左右を別々に動かせるため、動作が4回に分かれます。そのため、脚や歩行器を出す順番を覚えて、スムーズに動かす必要があり、固定型歩行器よりも動作を習得するのが難しいです。
交互型歩行器で持ち上げるのは、左右どちらかの脚だけです。そのため、本体ごと持ち上げる固定型歩行器よりは、腕の力が弱い方でも使用できます。
前輪付き歩行器ー
前輪付き歩行器とは、4本の脚のうち、前2本だけキャスター(車輪)がついているもののことです。
動かすためには、後ろ2本の脚を持ち上げて前に進むため、腕の力が必要です。
歩行器3種類以外に歩行をサポートする道具
歩行をサポートする道具には、ほかにも「歩行車」や「シルバーカー」などがあります。歩行車とシルバーカーの特徴や、歩行器との違いなどを説明します。
歩行車
歩行車は、4つの脚すべてに車輪がついている道具です。軽く押せば動いて歩けて、そのつど持ち上げる必要がありません。そのため、手の力が弱い方でも使いやすい特徴があります。
リスクは、スピードが出すぎる可能性があることです。すべてが自由に動くタイヤだと、歩行車が先に進みすぎて、前のめりに転倒する危険があります。そのため、製品によっては、手で握るブレーキがついていたり、後ろ脚に体重をかけるとタイヤが固定されてブレーキがかかるなどの工夫がされています。
握力の強さや歩くスピードなどを見て、適した歩行車を選ぶことが大切です。
シルバーカー
シルバーカーは、自分の力で歩ける方向けの道具で、荷物を乗せる場所や、座って休める椅子がついています。自分で歩けるけれど、重い荷物を持って歩いたり、長時間歩いたりするのがしんどい方におすすめです。
基本的には、寄りかかるために作られていません。手すりに体重をかけると、シルバーカーごと転倒する危険があるため、歩行自体が不安定な方は、他の道具を選びましょう。
歩行器などの種類を選ぶ際のポイント
歩くのをサポートする道具には、多くの種類があります。「結局どの道具を選んだらいい?」と迷う方に向けて、歩行器の種類を選ぶ際のポイントを説明します。
身体状態
歩行を補助する道具を選ぶ際には、身体状態に合わせて選ぶのが重要です。それぞれの道具に適した人を表にまとめました。〇が適している、△は使用可能、×は適さないですが、その方の状況にもより異なります。あくまでも目安としてとらえてください。
固定型歩行器 | 交互型歩行器 | 前輪付歩行器 | 肘支持型歩行車 | シルバーカー | |
片麻痺(軽度) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
片麻痺(重度) | × | × | × | × | × |
円背 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
下肢の骨関節疾患 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
関節リウマチ | × | × | × | 〇 | × |
失調症 | × | 〇 | × | △ | × |
パーキンソン病 | × | 〇 | × | △ | × |
(参照:石川県リハビリテーションセンター「生活環境づくり 杖・歩行器の選定」)
(参照:快適介護生活「歩行器の選び方のポイントとシルバーカーとの違い」 )
軽度の片麻痺(体の半側に障害がある)、円背、足の骨関節疾患の方は、手の力が保たれているため、どの種類の道具も選択できます。
重度の片麻痺がある場合は、麻痺している側の手や足の力が入りにくいために、歩行器や歩行車、シルバーカーでは体を支えきれません。歩くことを考える際には杖が第一候補になります。
関節リウマチの方は、関節への負担を避けなければいけません。そのため、手首に負担がかかる歩行器は避けて、歩行車が適する場合が多いでしょう。
失調症の方は、手足がふるえて、バランスが悪くなりやすい特徴があります。持ち上げなくてよい、交互型歩行器や歩行車が適合しやすいです。歩行車だと方向転換する際にふらつきやすい場合には、歩行車に重りをつけるとふらつきを軽減できます。
パーキンソン病は「手足のふるえ」「歩き出しにくい」「ゆっくりな動作」などの症状が代表的な疾患です。一度歩き出すと上体が前のめりになりやすい方は、歩行車を使用する際にスピードをコントロールするための重りを取りつけるのが有効です。また、スピードコントロールがしやすい、交互型歩行器も多く使われます。
手すりの高さ
歩行器、歩行車、シルバーカーの高さを合わせる方法は、持ち手の種類によって異なります。
肘をおいて使用する歩行車(肘支持型歩行車)は、立った状態で肘おきに乗せた肘の角度が、ちょうど90度になるくらいに調整しましょう。
手で持ち手をつかむタイプの歩行器やシルバーカーは、立って、軽く肘が曲がる状態(約30度)に持ち手がくる高さが適しています。
それぞれ高さ調整できるので、使う前によく合わせておきましょう。
(参照:石川県リハビリテーションセンター「生活環境づくり 杖・歩行器の選定」)
使う場所や目的
歩行器や歩行車を選ぶ際には、使う場所や目的を考えるのも重要です。道具によって、合う場所と合わない場所があります。
下の表を参考に、屋内や屋外、段差の有無などを考えるのが有効です。表は必ずしもすべての場所にあてはまるわけではありません。あくまでも目安としてとらえておきましょう。
場所 | 歩行器 | 歩行車 |
段差 | 〇 | × |
屋内 | 〇 | 〇 |
屋外 | 〇 | 〇 |
階段 | × | × |
使える幅 | 80cm | 85cm |
(参照:石川県リハビリテーションセンター「生活環境づくり 杖・歩行器の選定」)
歩行器は、屋内・屋外ともに使用できます。小さい段差はのぼれますが、階段は転落のリスクがあるため使用できません。
歩行車は、歩行器よりも幅が広く作られています。そのため、狭い廊下などだと利用しにくい場合があるため、小さめのサイズを選ぶなどの工夫が必要です。タイヤが小さい歩行車は、段差を乗り越えるのが難しく、段差が多い場所では違う道具がよいでしょう。
場所によって使用したい用具が異なる場合には、屋内用と屋外用の2種類用意して、使い分ける方もいます。
このように歩行をサポートする道具は、いろいろな視点から選ぶのが重要です。
ご本人の体の状態や状況をしっかり評価して選ぶことが大切です。歩行器の選び方が難しく感じたら、リハビリ専門職や福祉用具専門相談員などに相談することをおすすめします。ご本人に合った道具を選ぶことで、転倒のリスクを減らして活用しやすくなるでしょう。
歩行器は介護保険でレンタルできる
歩行器と歩行車は、介護保険でレンタルできます。「福祉用具貸与」という名前のサービスです。
歩行器をレンタルするか、購入するか迷う方がいるかもしれません。結論としては、どうしても購入したい理由がないのであれば、レンタルがおすすめです。理由は以下の2点です。
- 費用負担が抑えられる
- 体の変化に合わせて交換してもらえる
介護保険でのレンタルは、1割(一部高所得者の方は2~3割)分の支払いですみ、費用負担が抑えられるのが大きなメリットです。費用の目安は、1割負担の方の場合には、1ヶ月200円~700円程度です。
(参考:ヤマシタ、ヤマシタ。「歩行器のレンタルは介護保険が利用可能!レンタルするメリットとは?」 )
レンタルをおすすめする2つ目の理由は、体の状態に合わせて、無料で交換してもらえることです。
歩行器は体の状態に合わせて、種類を変更していく必要があります。購入すると、そのつど買い替えて費用がかかるうえに、処分に困ることもあるでしょう。レンタルであれば、体に合った歩行器に無料で交換してもらえます。
どうしても購入したい理由がないならば、レンタルがおすすめです。
なお、シルバーカーは自立して歩ける方向けの道具のため、介護保険でレンタルできません。シルバーカーを選びたい場合には購入が必要です。
ご家族に合った種類の歩行器を選んで安全な生活に役立てよう
歩行器は、足が不自由な方が歩くのをサポートするために使います。歩行器を使用すれば、動作を安定させて行動範囲を広げることにもつながるでしょう。しかし、合わないものを選ぶと、転倒のリスクが上がり、かえって危険なことがあります。
歩行器を選ぶ際には、ご本人の手足の力や使用する場所、目的などを考えるのが重要です。合った歩行器を選ぶためには、リハビリ専門職や福祉用具専門員に相談することがおすすめです。また、歩行器は介護保険を利用すれば、かかった費用の1割分の支払いですむため、うまく活用しましょう。
ご家族の歩行を安定させて、安全に、行動できる場所を広げるためにお役立てください。