長男の嫁に親の介護の義務はある?介護ができない場合の対処方法を解説
「長男の嫁」という立場は、夫の家族の世話を一身に担うという考えが今も昔も変わりません。
こうした考えは一昔前より減ったとはいえ、義理の親と同居する嫁の多くは相当なプレッシャーが生じるものです。
そこで今回は「長男の嫁は義理の親の介護義務があるのかどうか、介護ができない場合はどうすればいいのか」についてまとめました。
本記事を読むことで、
- 長男の嫁には義理の親を介護する義務はない
- 長男の嫁が義理の親の介護を拒否する理由
- 介護トラブルを回避する方法
といった内容がわかります。
さらに、高齢者の総合相談窓口となる地域包括支援センターの詳しい情報もまとめました。
最後までぜひご覧になり、親の介護に悩む際の解決策に活用してください。
長男の嫁に親の介護の義務はある?
義理の親の介護は心身的な面はもちろんのこと、経済的にも大変大きな負担が生じるものです。
そもそも長男の嫁は義理の親の介護の義務はあるのでしょうか。
ここでは、法律的な面から義務の必要性を確認してみましょう。
法律上、嫁は義理の親の介護をする義務はない
民法第877条では、親の扶養義務について次のように定めています。
第1項:直系血族および兄弟姉妹はお互いに扶養の義務がある
第2項:三親等内の親族間においても扶養義務は生じる |
法律上、義理の親と同居の有無に係わらず、長男の嫁は親の介護を行う義務はありません。
親の介護義務が生じるのは、あくまでも直系血族である子や孫、あるいは兄弟姉妹です。
また、三親等内の親族の者が親の扶養義務を負うことになり、嫁には義理の親の介護や扶養の義務は生じません。
つまり「長男の嫁だから親の介護は当たりまえ」「親と同居する嫁は義理の親の面倒を見ないとならない」などは、法律上の義務ではないのです。
義理の親を介護する嫁は善意によるもの
夫が親の介護で大変な思いをしている場合、妻は夫を支えるために率先して介護の手伝いをすることでしょう。
だからとって、妻が義理の親の介護に参加する必要もありません。
つまり「嫁だから義理の親を介護しなければならない」「自分達の老後は嫁に見てもらう」という一般的な見識は民法上規定されておらず、誤った考えであることがわかります。
義理の親の介護を嫁が全力でサポートしている場合、それは「善意」以外の何者でなく、逆に実の親を介護する義務や扶養がなくなる訳ではないのです。
親族間の扶け合いによりサポートが必要な場合もある
一方で、嫁は義理の親の介護の義務がないものの、民法第730条では「直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない」としています。
つまり、嫁も家族の一員としてサポートが必要であることが規定されている訳です。
さらに民法第752条では「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と規定しています。
これは、婚姻関係のある夫婦の同居義務や扶助義務、そして協力義務の定めであり、配偶者は互いに協力し合うことが明記されています。
したがって、嫁も親族の一員として、あるいは配偶者として介護のサポートが必要な場合もあるとされているのです。
長男の嫁が親の介護を拒む理由
長男の嫁が義理の親の介護を拒む理由は千差万別です。
子供の面倒や経済面、仕事関係はもちろんのこと心理的な深い事情もあるでしょう。
ここでは、長男の嫁が介護を拒む主な5つの理由を紹介します。
- 義理親との信頼関係が希薄
- 仕事や子育てと介護との両立が困難
- 経済的に苦しくて介護ができない
義理親との信頼関係が希薄
長男の嫁として、普段から義理の親とのコミュニケーションは非常に重要です。
しかし「血の繋がらない夫の親」という観念から、信頼関係がなかなか築けない人もいるでしょう。
時として、親や親族から老後への期待がかけられらるなど、嫁の立場上大変なストレスが発生します。
また、義理の親の介護に対する夫婦間の考えのズレや、義理の親の情報不足も嫁が介護を拒否する一因であると考えられています。
仕事や子育てと介護との両立が困難
共働きで核家族の多い昨今、仕事や子育てのうえに介護との両立は大変な重圧がかかるものです。
近くに親族などの協力が得られれば良いですが、場合によっては仕事を辞めざる負えなくなったり、子供にも我慢を強要する場面もあるでしょう。
こうした「親の介護のために…」という犠牲を感じることが、介護を拒否する要因となります。
経済的に苦しくて援助ができない
介護期間が長引くほど、医療費や介護サービスに関わる経済的負担は計り知れず、同時に家計への影響は免れません。
そもそも子が負う親への介護義務は、現在の収入や社会的地位に最適な生活を営んだうえでの余力範囲によるものです。
そのため、自分たちの生活の犠牲を払ってまで援助を行うものではありません。
兄弟姉妹といった親族との協力は不可欠であり、介護費用の分担も必要なのです。
このように、経済的な負担や家計が苦しくて援助ができなことも介護を拒否する理由です。
親の介護は家族の義務/介護トラブルを回避する5つの対策
長男の嫁が義理の親の介護を拒否すると様々な問題に発展しかねません。
一方で、義理の親の介護や扶養義務は、兄弟姉妹の間で平等に生じるものであり、強いて言えば「親の介護は家族の義務」でもある訳です。
ここでは、介護トラブルを回避する5つの対策を紹介します。
- 親が元気なうちに義理親と兄弟姉妹間で話し合う
- 親への援助は経済的な余力の範囲内で行う
- 地域包括支援センターに相談する
- 親の主治医に相談する
- 介護施設への入居を検討する
介護トラブルは嫁や親族が思う以上に、義理親にとっても精神的に辛いものです。
ご紹介する5つの対策を参考に、自分たちに最適なアプローチ方法を見つけて介護トラブルを回避してください。
①親が元気なうちに義父母と兄弟姉妹間で話し合う
親の介護は「いつ」訪れるのかは誰も想像はできません。
そこで、親が元気なうちに、今後起こりうる介護について皆で話し合うことは非常に重要な課題です。
以下では、親と夫・兄弟姉妹を交えた話し合いの内容や対策を具体的にみてみましょう。
◆【親自身の今後の考えを把握する】
万が一、義理の親の介護が必要になった場合、親自身が「どこで介護を受けたいのか」「知らない人との共同生活は大丈夫か」等を事前に話し合うことをおすすめします。
また、自宅での介護には「誰にお願いしたい」のか、あるいは「兄弟姉妹はどういった役割であってほしいか」等も具体的に話し合うことで、嫁の心理的な負担を抑えることができるでしょう。
◆【親の現在の経済状況を把握する】
介護が始まると想定外の出費が重なるものです。
そこで、現在の親の預貯金額や資産状況もきちんと把握することが大切です。
介護施設への費用や介護サービスにかかる様々な出費も、親の預貯金等から利用することを検討しましょう。
◆【兄弟姉妹間で介護の役割分担を事前に検討する】
前述したように、兄弟姉妹間で親の介護の役割分担を事前に決めておくことも大切です。
例えば、介護を主に担う者、曜日や日時ごとに分担する等、具体的に検討することで長男の嫁の負担も軽減できます。
もっとも、同居する嫁に親の介護が集中しないように配慮することも重要です。
遠方に住む兄弟姉妹等で介護の手伝いができな場合、金銭面にて援助するなど対策をしてみてください。
◆【介護施設への入居も検討する】
後述してますが、専門職が揃う介護施設への入居も事前に話し合うと良いでしょう。
ここで勘違いして欲しくないことは、親を施設に預けることは決して悪いことではなく、罪悪感を持つ必要もありません。
介護保険制度は、日本の超高齢化という現実を捉えたもので、社会全体で公的介護サービスを存分に活用するべきという私達に与えらえた権利です。
また、要介護状態になれば、介護保険サービスの一環とされる施設への入居や訪問介護、あるいはデイサービスを受けられるもの私達や親の権利なのです。
施設への検討は誰しも心が揺れますが、介護の辛さや苦労を知っているスタッフが嫁や家族の心境を理解してくれるはずです。
また、ケアマネジャーと連携を取りながら、良い方向に向かうようにじっくり話し合いをしてみてください。
②親への援助は経済的な余力の範囲内で行う
親は子供を育てる扶養義務が生じますが、子が負う義務は「自らの収入に応じた生活の中で余力のある範囲内」とされています。
例えば「嫁やその家族の生活が苦しく、十分な余力がない場合は自らの生活を犠牲にしてまで親を援助する必要はない」ということです。
親への経済的な援助は、兄弟姉妹といった扶養義務者との話し合いによって決めることになりますが、話しがままならない場合は家庭裁判所の「扶養請求調停・審判」にて決定されることになります。
こうした家族間による介護トラブルを回避するためにも、地域包括支援センターや市区町村役場の介護相談窓口を利用し、公的サポートを受けて介護負担を軽減することが大切です。
③地域包括支援センターに相談する
親の介護は、まずは地域包括支援センターに相談することが不可欠です。
高齢者の総合相談窓口となる地域包括支援センターは、介護が必要な高齢者などが住み慣れた地元で安心して暮らすことができるよう、様々な支援やサポートを担います。
社会福祉士・保健師・看護師といった専門の職員が連携して対応してくれるため、認知症の親で悩む人にも安心して依頼できます。
下記は地域包括支援センターの主なサービス内容です。(※お住まいの地域によってサービス内容が異なる場合もあります)
総合相談 ※高齢者本人、家族と一緒に解決方法を検討する |
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権利擁護事業 ※高齢者の権利と財産を守る手伝い |
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介護予防ケアマネジメント ※健康維持、増進の手伝い |
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包括的・継続的ケアマネジメント事業 ※地域住民を支える |
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参考:埼玉県石心会病院「さやま地域ケアセンター」
地域包括支援センターでは介護や高齢者に関わる問題は何でも相談できるので、一人で悩みを抱え込まずに積極的に利用してみてください。
④親の主治医に相談する
親の健康状態を主治医に相談することで、最適な介護サービスが利用できる場合もあります。
例えば、介護保険サービスや介護施設への入居には、主治医による診断書が必要になるからです。
また、主治医の意見を取り入れることで安心・安全な介護が実施できることも大きなポイントです。
⑤介護施設への入居を検討する
親の介護がどうしても厳しい場合、介護施設への入居も選択技の一つです。
施設への入居によって、嫁の心身的な介護負担が軽減するほか、家族や兄弟姉妹等による人間関係のトラブルも回避することができます。
何よりも、介護の専門家に安心して親を預けられるのもメリットでしょう。
他方、介護施設への入居には「介護保険サービス」を利用するため、要介護認定を受ける必要があります。
また、要介護度によって利用できる介護保険サービスや、支援限度額基準額の限度額も異なります。
まずなお住まいの地域包括支援センターに相談し、現在の状況に適した介護施設を紹介してもらうと良いでしょう。
親の介護は嫁の義務のまとめ
法律上、長男の嫁には義理の親を介護する義務はありません。
一方で、日本古来から残る介護の価値観が、今もなお根強く残っているの現実です。
配偶者の妻としての責任もあり、なかなか自身の思いを打ち明けることも難しいことでしょう。
ですが、まずは夫と兄弟姉妹を交えて、親の介護に関わる話合いを設けて、早めに介護サービス等を利用してみてください。
1日も早く、家族が安心して日常生活を送れるよう、夫や兄弟姉妹と充分話合いを行い「安心の介護」を目指してまいりましょう。