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パーソンセンタードケアの理念とは?認知症の心理的ニーズをわかりやすく解説

介護業界の長い歴史の中、認知症を持つ方は「理解力を失った、何もわからない人」と認識され、食事や排泄・入浴介助だけが主なケアサービスとされてきました。

一方、現在では認知症ケアに対する捉え方が大きな転換期を迎えようとしています。

認知症を持つ方々が心の辛さや苦しみ、あるいは困難と向き合う現状を語り始めたことで「認知症の人も同じ一人の人間」「何もわからない訳ではない」と、これまでの認識が誤解であることに気づきだしたのです。

本記事では、認知症ケアの原点に立ち返り、要介護者の立場に則った「パーソンセンタードケア」の理念について、下記の事項を述べていきます。

  • パーソンセンタードケアとは何か
  • パーソンセンタードケアの5つの要素
  • 認知症の方の心理的ニーズ
  • パーソンセンタードケアを実践するためのステップ
  • 認知症の方の良い状態と悪い状態のサイン

介護あるいは看護にたずさわる全ての方々にご覧いただき、今後の認知症ケアに生かしてください。

パーソンセンタードケアとは

パーソンセンタードケアとは、イギリスの心理学者の老年心理学教授トム・キッドウッドによって提唱された認知症ケアの考え方です。

ここでは、パーソンセンタードケアがなぜ必要なのか、その基本理念をわかりやすく説明します。

ケアの根幹は一人の人間として尊重すること

トム・キッドウッドは自ら介護施設に出向き、年月をかけて認知症患者を観察しました。

その結果、認知症患者を物や動物のように扱う悪い習慣を、介護施設全体で改革する必要があると考えたのです。

トム・キッドウッドは、認知症ケアに対して次のように提唱しています。

「認知症を持つ方を一人の人格として尊重し、一人ひとりの声に耳を傾け、その人の立場になってケアを行うことで認知症の回復は促せる」

「たとえ重度の認知症であっても、本来の姿を引き出すことができるのだ」

つまり、「認知症患者を一人の人間として尊重するケアを行うことで、本来の姿を引き出すことができる」と明言されました。

ケアの最終目標はパーソンフッドを維持すること

トム・キッドウッドは、パーソンセンタードケアの神髄となる「パーソンフッド」をあみ出し、認知症を持つ人は5つの心理的ニーズが重要としています。

  • 自分らしさ
  • 結びつき
  • 携わること
  • 共にあること
  • くつろぎ

これらの心理的ニーズが充分満たされていれば、たとえ認知症の症状が悪化しても、5つのニーズを包括する「愛(LOVE)」が満たされ、認知症の方は良い状態に向かうとされています。

つまり、

認知症を持つ方を「一人の人間」として受け入れ、介護者(周囲)は相手を尊重すること。

認知症ご本人も「周囲から受け入れられている」ことを実感することで、お互いが他者を思いやる気持ち、尊重・信頼・寄り添うといった、より良い相互関係が維持できる。

これが、パーソンフッドの概念です。

認知症を持つ方は、「自分の存在価値を無条件で受けとめてもらう」そうした思いを欲しており、その思いは私たち介護者が目指すべきパーソンセンタードケアによる目標でもあるのです。

認知症本人の発信が世界中に衝撃を与えた

46歳の若さでアルツハイマー病を発症した、オーストラリア在住のクリスティーン・ブライデンさんは、若年性認知症ご自身による発信の先駆けとして、世界中の介護業界に大きな衝撃を与えました。

クリスティーン・ブライデン著「I Became Me: Dancing with Dementia(私は私になっていく 痴呆とダンスを)」には次のように記載しています。

あなたがたによる私たちへの接し方次第で、病気の発症に多大な影響を及ぼします。

あなた方の接し方次第で、私たちは人間らしさを感じることができ、必要とされて価値ある人間であることを感じることができるのです。

社会の一員として繋がっている私たちの能力を認め、自信を与えて励まし、抱きしめてほしい。そして尊重してほしい。

過去に戻ることはできないけれど、今の私たちを受け入れて、懸命に機能しようと努力していることを認めてほしい。

結びに、認知症を正確に把握することが「認知症にやさしい社会」につながると述べています。

ケアの基本理念は共感と受容

ケアの基本理念は「共感」と「受容」が掲げられます。

介護ケアについてアメリカの社会学者ミルトン・メイヤロフ氏は、自身の著書「ケアの本質」にて次のように記載しています。

一人の人格をケアするとは、最も深い意味で、そ の人が成長すること、自己実現することをたすけることである

さらに

ケアの相手が成長するのをたすけることとしてのケアの中で、私はケア する対象を、私自身の延長のように身に感じとる 。

出典:大阪大学学術方法OUKA「待兼山論叢 第51号 哲学篇 2種.indb

言い換えれば、「自分自身も同じ苦しみを味わいたくないからこそ、他者に温かな手を差し伸べてあげたい。」という意味でしょう。

介護とは、他者の痛みを自身の痛みと捉えて行う「共感」と、他者の置かれた状況を的確に理解し気持ちを汲み取る「受容」から成り立つといっても過言ではありません。

大切なことは、目の前の認知症患者をわかってあげる、懸命に理解してあげることです。

認知症の方は、自分のことをわかってくれる人が一人でもいるだけで、生きるエネルギーが湧き、強いては自立生活への一歩が踏み出せるのです。

「認知症になると何もわからなくなる」は間違い

認知症の方へのケアは、人知れず困難な場面も多いのが現実です。

ある時は「物を盗られた」と妄想を起こし、ある時は徘徊や問題行動を起こすなど、介護者の心身疲弊は言葉で表すことはできません。

一方、「認知症の人は何もわからない」との間違った先入観によって、誤ったケアの歴史が繰り返された事実も歪めません。

しかし、認知症に罹ったことで誰よりも苦しみ、心に傷を負っているのは「認知症患者」本人です。

問題行動と言われる言動も、過去のライフスタイルや不安、あるいは動揺・悲しみといったメッセージが隠れているのです。

そうした声にならないメッセージを理解することが介護ケアの第一歩となり、「その人らしさ」を重視するパーソンセンタードケアの理念なのです。

認知症を持つ方の立場に則った姿勢が大切

例えば、次のような悩みを抱える介護者もいるでしょう。

元気だった頃に子守りをしていた認知症の女性が、夜中に突然「家に行ってくる」と言って施設を出ようとする場合があります。

あるいは、以前に野菜作りをしていた男性が「畑を見てくる」といって、施設内を歩き回っている場合もあるでしょう。

仕事熱心だった男性は、職場を探しに徘徊したり、突然大きな声を出して暴れて騒ぎ出す方もいるかもしれません。

こうした行為に周囲は戸惑いがちですが、まずは冷静になって本人から理由を聞いてみることが大切です。

当初は、何等かの不安を抱えて目的があって歩き出し、または暴れだしていたにもかかわらず、途中でその目的を忘れ、ただ徘徊している方もいます。

自分の意思を伝えられないもどかしさが、大声を出して暴れるといった姿で現れる場合もあるのです。

同一人物の認知症の方であっても、日によって言動の落差があるため、介護者側の心身の負担は計り知れません。

さらに、アプローチ方法も一人ひとり異なるため、個々の認知症患者を理解するには、かなりの月日を費やします。

しかし、遠回りに見える「認知症を持つ方の立場に則った姿勢」が、症状の良し悪しを左右し、正しい介護ケアを行う早道になることを信じてください。

パーソンセンタードケアに活かす/認知症の方の良い状態と悪い状態のサイン

認知症の症状は千差万別であり、同じ方でもその日によって状態は全く異なります。

昨日とは違う態度に介護者は一喜一憂し、心が追いついて行けない場合もあるでしょう。

トム・キッドウッドと研究グループは多大な年月をかけて、認知症を持つ方々の「良い状態」と「悪い状態」をまとめています。

ここでは、認知症の方の価値を「低くする行為」及び「高める行為」、そして「悪い状態」と「心地良い状態」の目安を確認しましょう。

認知症の方の価値を低くする行為と悪い状態のサイン

超高齢化社会の昨今、介護ケアに心身が疲れ、認知症の人の価値を低くする言動を行う場合もあります。

そうした行為を繰り返すことで、認知症ご本人を「悪い状態」に引き込んでしまうため留意する必要があります。

認知症の方の価値を低くする行為
    • 幼児扱いすること
    • 好ましくないレッテルをはること
    • 非難すること
    • 欺くこと
    • 侮辱すること
    • だますこと
    • 人として否定すること
    • 本来の能力を生かさないこと
    • 強要や強制をすること
    • 途中で中断すること
    • 人としてではなく物扱いすること
    • 差別をすること
    • 無視をすること
    • 除け者にすること
    • 後回しにすること
    • 恐怖を感じさせること
    • 急がせること

 

次に認知症の方の悪い状態の目安を確認しましょう。

例えば、「家に帰りたい」と繰り返し訴える方は、孤独や寂しさを感じて居場所のなさを嘆いているのかもしれません。

そうした方には、不安で寂しい気持ちを受け止め、温かな言葉がけやコミュニケーションを図り、より一層の人間関係を築き上げる必要があります。

認知症の方の悪い状態の目安
  • 辛くて悲しいときに誰からも相手にされない場合
  • 絶望しているときに寄り添ってくれる人がいない場合
  • 非常に激しい怒りがあるとき
  • 不安や恐れがある場合
  • 心身の苦痛や不快感がある
  • 心身が動揺している
  • 無気力・無関心である
  • 何もすることなく退屈している
  • 身体の緊張やこわばりがある

感情のコントロールができず、他者を叩いたり暴言を繰り返す人には穏やかに注意し「どうすれば他者との関係が保たれるのか」、日常生活の状態を再確認する必要があります。

認知症の方の価値を高める行為と良い状態のサイン

認知症を持つ人々のパーソンフッドを維持するには、各人の心理的ニーズを存分に満たし、心地よい状態になるための働きかけが必要です。

認知症の方の価値を高める行為
  • 一人の人間として尊敬すること
  • 本人を受け入れること>
  • 喜びや悲しみを共に共感し合うこと
  • 一人の人間として尊敬すること
  • 心穏やかで誠実であること
  • 共感して理解しようとすること
  • 能力が発揮できるように努めること
  • 不可欠な支援を怠らないこと
  • 継続的に関わりを持つこと
  • 本人と一緒に行うこと
  • 一個人として個性を認めてあげること
  • 孤独ではなく一員として感じられること
  • 孤独ではなく一員として感じられること
  • 共に楽しめること
  • 後回しにしないこと
  • 恐怖を感じさせないこと
  • 急がせないこと

次に認知症の方の心地良い状態の目安を確認しましょう。

ご本人が「何に悩み、何を望んでいるのか」認知症本人の心を知り、その方が安心して暮らせるようにきめ細やかな励ましを送りたいものです。

認知症の方の心地よい状態の目安
  • 心身がリラックス状態である
  • 自己主張をきちんとできる
  • 自分に自身を誇りを持っている
  • 多種多様な感情を表わすことができる
  • 楽しさ・嬉しさ・喜びを表わすことができる
  • 自己表現が創造的である
  • ユーモアに的確にユーモアを返せる
  • ユーモアや楽しいジョークが使える
  • 誰かの役に立とうとして、何かしてあげようとする
  • 手伝いを進んで行おうとする
  • 人や動物に愛情を示すことができる
  • 自尊心がある(乱れや汚れが気になる)
  • 他人のニーズが敏感に反応する

心の重荷をとって、軽やかに楽しくしてあげる・・・そうした個人の価値を高める行為がパーソンセンタードケアに基づいた実践になります。

パーソンセンタード・モデルの5つの要素とは

パーソン・センタード・モデルとは、認知症の方の行動や状態を5つの要素を基準にし、本人の立場に立って理解するアプローチ方法です。

トム・キットウッドは、「認知症は脳の病気だけに起因する」という、元来の認識を打ち消し「その背後にはより深い要素がある」ことを突き止めました。

ここでは「パーソン・センタード・モデル」という5つの要素をみてみましょう。

認知症の5つの要素 生活支障の内容
①脳の障害 認知機能障害
(記憶障害・理解及び判断能力障害・実行機能障害・視空間障害・失語・失認など)
②身体の健康状態 視力や聴力の低下・痛み・かゆみ・便秘・排泄障害・脱水・栄養障害・感染症など
③性格傾向 内気で引っ込み思案・社交的・他者に頼りたい・他者の世話になりたくない・短気・長気・神経質・無神経質・大らか・優しさ・好奇心旺盛・慎重など
④生活歴 家族構成・過去の職業・生活していた地域・好きなこと・嫌いなこと・得意なこと・苦手なこと・嬉しかった経験・誇りや自慢できることなど
⑤社会心理 社会関係:ケアしてる人との人間関係・共に暮らしている人・家族・親戚

物理的環境:生活場所で不快な部分

一括りに認知症といっても、その症状は千差万別であり、上記の5つの要素が深く絡み合ってその人の状態が現れています。

①脳の障害

日本の3大認知症といわれるのが「アルツハイマー型認知症」「血管性認知症」「レビー小体型認知症」です。

中でも、アルツハイマー型認知症と血管性認知症の2つを合併するケースが最も多いのが現状です。

【出典:政府広報オンライン(認知症の原因となる病気)】

「脳の障害」」は、認知症の方の言動にもっとも多大な影響を与える要素です。

認知機能の低下により、まるで真っ暗な闇に包まれたような不安や不快感に襲われるようになります。

まずは、ご本人の脳の障害がどの程度進行しているのか、どういった不安を抱えているのか、下記を例に把握することが重要です。

  • 最近、何があったのかを思い出せない
  • 今はいつで・どこで、誰なのかがわからない
  • 言葉が理解できない、あるいは話せない
  • 行動に対する手順や物への扱い方が理解できない
  • 通常と異なったように物が見えてしまう
  • 筋道を立てて物事を判断することができない

こうした状態が絶えず続くならば、認知症ご本人の心身の混乱は避けられません。

ここでもっとも注視するべきことが、配偶者や親族などとの死別によって喪失感が続いている場合でしょう。

死別による喪失感は次第に生きがいを失い、脳や精神的機能低下の原因を招くのです。

他方、同じ脳の障害であっても、人によって症状が異なるのは、他の要素が細かく絡み合っていることに注意してください。

②身体の健康状態

パーソンセンタードケアで大切なことは、認知症の方の健康状態を的確に把握することにあります。

認知症を患うと、自身の体調がどんなに苦しくても、あるいは痛みを伴う苦痛であっても、それらを表現することは非常に困難です。

主な身体的不良の種類 身体的な不安感や孤独感の原因
栄養失調・便秘・脱水・感染症 白内障・緑内障・視力低下などで目がよく見えない
糖尿病・心疾患などの合併症による悪化 片耳あるいは両耳の聞こえが良くない
歯痛・腰痛・骨折・皮膚疾患・肩こりなどの痛みや痒み 補聴器やメガネ、入れ歯など補装具の不具合
薬物の過剰投与からくる副作用な 排泄に関わる障害の悩み

こうした不調があることで、周囲との交流にも支障をきたし、心は次第に閉じ籠もっていきます。

普段と異なる突然の言動には、病気や体調不調が潜んでいるため、きめ細やかな配慮が必要です。

③性格傾向

桜は桜、梅は梅という「桜梅桃李(おうばいとうり」言葉のように、誰一人同じ性格を持つ人はおらず実に千差万別です。

例えば、認知症の方に同じ注意をしたとしても、ある人は怒鳴り返し、ある人は泣き出し、またある人はその場から立ち去る人もいるでしょう。

社交的で人懐っこい人がいれば、内気で引っ込み思案、または人付き合いが苦手な人がいます。

他者の世話になりたくない人もいれば、人にやってもらいたい人もいます。もちろん、気が短く怒りっぽい人もいれば、気が長く穏やかな人もいるでしょう。

これらは、その人が元来持ち合わせる性格(特性)によるところが大きく、各人によって表われる言動も全く異なるのです。

④生活歴

認知症を持つ方々は、人知れず幾多の荒波を乗り越え、深い人生を歩まれてきました。

そうした人生経験によって、物事の捉え方や価値観も人それぞれ異なります。

その人の人生の歩みを知ることは、現在の状態を把握するためにも重要な手段となり、生活上のズレがないかを確かめる手がかりにもなります。

一方、以前は得意でも現在はできないことも多々あります。

さらに離婚や死別、災害や病気などは思い出したくない(思い出せない)ほど心身にダメージを負っている場合もあるため、本人から情報を得るには十分留意してください。

⑤社会心理

軽度の認知症では、聞いたことを忘れて同じことを何度も聞き直すほか、判断能力の低下を起こすようになります。

中度では記憶障害が強く表われ、日常生活にも支障をきたすようになるでしょう。

しかし「嬉しい」「寂しい」「悔しい」「怖い」「不安」・・・こうした人間として不可欠な感情も周囲が感じる以上に判っているとされています。

そのため、認知症を持つ方を取り巻く人々の関わり方(社会的心理)次第で、認知症患者の心身に与える影響は左右されていくのです。

例えば、「認知症だから何もわからない」と決めつけて、幼児扱いしてみたり、本人を蔑ろにするような態度を続けるならば、生きていく生命力さえ奪うことになります。

介護者は、その日その時に応じて、もっとも価値的な行動を起こしていくことが介護ケアでは大切です。

一方で、認知症の方々のケアは忙しく、辛い日々が多いでしょう。

口元に怒りや愚痴が出そうになる場合もあるかもしれません。

ですが、認知症を持つ方は、介護者の笑顔に優しさを感じ、強い生命力を維持できることを決して忘れないでください。

認知症の方が表情を変えずに無気力になっていたり、視線を遠くに流すような状態の場合、生きる意欲の低下を起こしている恐れがあるため、ただちにパーソンセンタードケアを実行しましょう。

パーソンセンタードケアの重要ポイント!5つの心理的ニーズを理解する

パーソンセンタードケアを実施する上で大切なことは、認知症を持つ人が「何を望み」「何を必要としているのか」といった「心理的ニーズ」を理解することです。

トム・キッドウッド氏は、一人の人間が滞在的に持ち合わせる心理的要素を5枚の花びらに表しました。

花の真ん中には一人の人間として尊重するべき「愛(LOVE)」を掲げ、5つの要素の根底となっています。

認知症の方々は、満ちあふれる思いやりと慈悲を強く望んでいます。

それらは表面上ではなく、まさに母が我が子に無条件で与える慈しみの心に他なりません。

こうした心理的ニーズは、混濁する現代社会で暮らす全ての人々が求めるニーズといえます。

一方で、認知症の方々は認知機能の衰えによって5つのニーズを受け入れにくくあり、同時に周囲による「人間の価値を損なう行為」によってBPSDが発生しやすくあります。

BPSDは「中核症状(物忘れや判断力の低下・記憶障害・失語など)」によって生じる「周辺症状(行動症状・心理症状)」をいいます。

周辺行動による行動症状の具体例として、暴言・暴力・徘徊・拒絶・不潔行為が挙げられ、心理症状には抑うつ・幻覚・不安・睡眠障害・妄想などがあります。

私たち介護者は、認知症を持つ人のパーソンフッドの向上のために、より積極的なサポートと、一個人の価値を高める「パーソンセンタードケア」を行うことが重要です。

ここでは、花びらに合わせた5つの心理的ニーズを一つずつ確認してみましょう。

花びらに合わせた心理的ニーズ 心理的ニーズの意味
自分らしさ
(Identity)
ご自身が今後、何をしてどういった人生を過ごすのか、生きがいを見つけて暮らすこと
結びつき
(Attachment)
心配や不安が大きい場合、身近な人との交流や関わり、絆を深めること
携わること
(Occupation)
自身の能力を活かして、自分自身にとって有意義な方法で活動に取り組むこと
共にあること
(Inclusion)
他者から高く評価され、受け入れを感じて共に楽しもうと思うこと
くつろぎ
(Comfort)
恐怖や不安を少なくし、くつろぎや安心感を感じてリラックスできること

①自分らしさ

認知症を持つ方は、過去に自身が経験した記憶の数々を断片的にしか保たれていません。

つまり、過去から現在にいたるまでの記憶が薄らいでいるため、「現在の自分は過去から繋がっている自分である」という認識も低下しています。

そのため、「自分が自分である」=「自分らしさ」が失われつつあり、「自分は他の誰でもない私自身である」存在を満たしてあげる必要があります。

「自分が自分である」という認識が維持できなくなると、自身の存在自体が危機に晒され、認知症本人の生命自体も危うくなるのです。

こうした認識を保つためには、元気な頃のアルバムを見せて語り合ったり、写真を壁に貼っても良いでしょう。

「自分が自分である」ことは、認知症の心理的ニーズの中でも最も重要な一つとなるのです。

②結びつき

私たちは、「人に支えられ」「人に助けられ」「人から物事を教わる」といった人との繋がりの中で生活をしています。

長い人生を生きてきた認知症を持つ方も、生命の奥底に人との結びつきを求め、安心と温かさを求めているのです。

一方で、認知症の症状が進むにつれて、記憶や知的障害が強く現れるようになり、家族をはじめ周囲の人々との繋がりも途切れがちになります。

そのため、下記を例に認知症の人の心理的ニーズを見出してあげると良いでしょう。

  • 昔から馴染みの深い友人・知人と会う
  • 長年の趣味や習慣化されたことを(今の場所で)行えるようにする
  • 大切にしてきた物をできるだけ身近に置いてあげる

介護者や周囲の人は、そうした認知症本人の習慣を否定せずに受け入れ、愛着やこだわりを共感してあげることが大切です。

③携わること

私たち人間は、「誰かの役に立ちたい」あるいは「自分も何か手伝いたい」という気持ちを持ち合わせる生き物です。

認知症を持つ人にもそうした欲求はあるものの、介護者からは「迷惑だから」「危険だから」といった理由で、自ら望む思いを断ち切る場面も少なくありません。

しかし、認知症の人が自ら進んで「携わりたい」という行為を真っ向から否定せず、その欲求が上手く満たされるように導いてあげることも大切です。

例えば、料理のお手伝いをしようとする認知症の人には、下記のように接すると良いでしょう。

  • 各種食材を洗ってもらう
  • タマネギやキャベツなど、野菜の皮をむいてもらう
  • マトのヘタなど、不要な部分を取りのぞいてもらう
  • フライには、衣をつけてもらったり、天ぷらには小麦粉を入れてもらう
  • 食材を混ぜてもらう
  • 認知症ご本人のセンスで盛り付けてもらう(あるいはマネして盛り付けてもらう)
  • 一つひとつ配膳してもらう

こうした簡単なことも、本人のペースに合わせて丁寧にやってもらいましょう。

もちろん、失敗しても怒らず、本人の思いが実現できた喜びを共に共有することも大切です。

また、「あのサラダは綺麗にできたよね」「タマネギむいてカレー作ったよね。とても美味しかったね」と、当時の思い出を振り返ることで、過去の記憶を呼び戻す訓練にもつながります。

④共にあること

「認知症だから何もわからない」との先入観で、介護者と認知症患者と家族などの話し合いでも本人を無視して進行する場合もあります。

こうした行為は、認知症本人はたとえ無表情であっても深く傷つき、あきらめの窮地にいるかもしれません。

パーソンセンタードケアの基本理念は、「認知症を持つ人も一人の人格として尊重すること」にあります。

自身の思いを上手く表現できないだけで、無視への悲しみや淋しさあるいは憤りは保っており、自身のプライドも十二分にあることを介護者は認識する必要があります。

例えば、認知症を持つ人を決して廃除・無視せずに、次のように接してみてください。

  • 人との会話の中でも、本人との「アイコンタクト」を頻繁にとる
  • 本人との言葉がけを意識して会話を行う
  • 夕ご飯に食べたいものを話してもらう
  • レクリエーションなどで使う好きな用具や本を選んでもらう
  • 今日着たい洋服を選んでもらう

その他、認知症を持つ本人の「意思決定場面」を多くすることで、「自分は誰かと共にある」ことを実感できるでしょう。

⑤くつろぎ

「くつろぎ」そのものの意味として

  • 優しさ
  • 温かさ
  • 他者と親密になること
  • 不安を取り除くこと
  • 身体的な苦痛のない状態

などがあり、こうした状態から生じる安堵感などが挙げられます。

さらに、心身的なくつろぎとして、心の底からリラックスできる安心感も表しており、他者との関わりによって生まれる心理的ニーズも見逃せません。

一方、「くつろぎ」とは身体的な苦しみ・痛みを伴わない場合に感じるもので、下記の状態ではくつろぎの状態とはいえません。

  • ベッドに寝っぱなし状態による身体の痛み
  • 車椅子に座りっぱなしによる腰やお尻の痛み
  • 寒さや暑さに対応しきれない苦痛など

認知症を持つ方々は、自身の苦痛を言葉に出して表すことが難しく、施設内外を徘徊したり、無理に引き留めるならば激しく抵抗する方もいます。

こうした現れは、苦痛や不安・不快感を回避して「くつろぎたい」という心理的な思いからきている場合もあるのです。

介護者は、一人ひとりのニーズに気を配り、心身ともにゆったり過ごせる環境を目指しましょう。

パーソンセンタードケアを今日から始める

下記にご紹介するステップは、パーソンセンタードケアを行ううえで重要項目です。

  • 生活支障の程度を確認する
  • 認知症本人の思いに耳を傾ける

加えて、先にご紹介した【心理的ニーズ】の対応の3つが、認知症ケアの最大のヒントとなります。

ここでは、認知症を持つ方の目線に立って、介護ケアを効果的に実施する2つのステップを確認しましょう。

生活支障の程度を確認する

生活支障として、認知症ご本人が犯罪行為や交通事故に巻き込まれたり、周囲の者たちを心理的・社会的に困難な状態に追い込むことを指します。

つまり、生活支障とは事故や人間関係や社会的問題によって生じる「生活上の困難さ」のことであり、俗にいう「生活障害」とは異なります。

介護ケアを行ううえで、まずは認知症ご本人にどういった生活支障があるのか、ある程度把握する必要があります。

認知症ご本人の「生活支障を迅速に把握」することが、ご本人の問題行動の悪化や心身的な豊かさに影響を与えるのです。

※生活障害とは主に要介護の高齢者に関わるもので、基本的な日常動作が難しくなります。例えば、食事や排泄などが自身でできなくなる場合も生活障害です。つまり、身体的機能の低下によって、生活に支障をきたすことをいいます。

それでは、以下のシートを利用して、生活支障の程度を確認してみてください。

出典:国立大学法人 浜松医科大学(高齢者施設における認知症高齢者の生活支障尺度を利用したケアプラン作成&実践ノート)

認知症ご本人の生活支障を的確に把握することで、より深くご本人を理解でき、周囲の人々との関係性もプラス方向へと変わっていくでしょう。

また、認知症ご本人が最適に暮らすにはどうしたら良いのかなど、介護者全体がご本人を尊重してケアする道しるべとなるはずです。

本人の思いに耳を傾ける

パーソンセンタードモデルの基本理念は、認知症ご本人を一人の人間として尊重し、本人の思いに耳を傾けることです。

介護ケアでもっとも大切なことは、ご本人とのコミュニケーションを図ることにあります。

もちろん、思い通りに介護者の言動が通じない場合もあるほか、ご本人が思いを出すにも相当な時間が必要でしょう。

一方、話しができない方でも、身振りやアイコンタクト、あるいはわずかな表情で心の思いを訴えている場合があります。

まずは認知症のご本人を一人の大切な人間として接し、落ち着いてじっくり思いを引き出してみてください。

パーソンセンタードケアのまとめ

パーソンセンタードケアは、認知症の方が心の奥底に秘めた思いを把握し、ご本人の立場に立ってケアを行うものです。

「一人の人間として尊重し認める」それは、人間としての基本的な原点に他なりません。

まずは生活支障を再確認し、認知症を持つ方々と介護者との信頼関係が深まることを願っております。

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