清拭の効果的な方法とは?目的と手順を押さえよう
清拭(せいしき)は、入浴できない方の身体を、温めたタオルなどで拭いて清潔に保つ、大切な行為です。しかし介護が初めての場合は「どうやったらいいのだろう」「うまくできるかな?」と不安に思われる方も多いのではないでしょうか。
本記事では、清拭の目的や効果、必要な準備、押さえておきたい注意点や手順、清拭の効果をさらに高める方法について解説します。
本記事を読めば、必要な準備を整えて、ご本人への負担を最小限にしながら清拭できるようになるでしょう。ご自宅での介護にお役立てください。
清拭とは
清拭とは、入浴やシャワー浴ができない方の身体を、温かい蒸しタオルなどで拭いて、清潔に保つための行為です。
要介護や病気の影響で、寝たきりの方などに行われます。
身体全体を拭く「全身清拭」と一部分だけを拭く「部分清拭」があり、ご本人の体調に合わせて行います。
目的
清拭の主な目的は、以下のとおりです。
・皮膚表面を清潔にする
・全身状態や皮膚を確認する
・苦痛をやわらげる、さわやかな気分にする
・心と身体をリラックスさせる
・身だしなみを整えて、気もちを向上させる
入浴できない寝たきりの状態だからこそ、身体を清潔にするだけではなくて、ご本人を気もちよくしたり、全身状態をチェックしたりする目的でも行います。
効果
清拭には、身体面、精神面に対して以下のさまざまな効果が認められています。
・血液のめぐりを良くする
・新陳代謝を促進する
・拘縮(病気などで関節が動きにくくなること)を予防する
・リラックスさせる
・床ずれを防止する
寝たきりでは身体が動かせないために、血液のめぐりが悪くなったり、関節が動きにくくなったりします。清拭で身体を動かすことで、血液循環を良くして、褥瘡や拘縮を予防することにもつながるのです。
清拭に必要な準備は何がある?
ここからは、清拭するにあたって必要な準備を確認しておきましょう。
清拭を一旦始めると、ご本人が寒くならないように手早く行う必要があります。物品を途中で取りに行くのも難しくなるので、最初に準備を整えておきましょう。
物品をそろえる
清拭に必要な物品は以下のとおりです。ワゴンや台などを用意して、そろえておくことをおすすめします。
・体の下に敷く、バスタオル
・小タオル何枚か(部位ごとに交換するため)
・石けん(汚れがひどいとき)
・ふき取りよう洗面器
・温かいお湯(55~60度)
・ゴム手袋
・お湯が冷えたときに差し湯するための熱いお湯ポット
・温度計
・汚水用バケツ
お湯の温度には、さまざまな説がありますが、多くの病院では、そのままでは手を入れられない程度の熱いお湯(55~60度)に、手袋を使用して行います。
後述しますが、お湯は使用するうちに、温度が低下します。こまめに温度計で計測して、5分以降とり替える、もしくはさし湯して温度を保ちましょう。「タオルをしぼった温度はお湯の温度よりも8~10度低下する」ことを考慮して、低すぎる温度でご本人の体温が低下するのを防ぐためです。
フェイスタオルは、顔や身体、陰部など拭く場所で取り替えていくため、部位ごとに多めに用意しておくとよいでしょう。
環境を整える
清拭する部屋の環境は、次のような点に気をつけて整えましょう。
・部屋の温度
・プライバシーの確保
・ベッドの高さは介護者の腰の高さ(腰の負担を減らすため)
身体が冷えないように、部屋の温度は温かめに設定しておきましょう。
また、プライバシーへの配慮はとても大切です。リラックスできるように、カーテンや窓をしめるなどの配慮を忘れないようにしましょう。
ベッドの高さの設定も大切です。低い高さのまま作業すると、介護者の腰をいためかねません。腰の高さ程度までベッドを上げておくと、負担を軽減できます。
清拭の注意点
清拭での注意点を紹介します。ご本人への負担を軽減するための内容と、そのほかの注意点に分けて見ていきましょう。
負担を軽減する
ご本人への負担を軽減するために注意したいのは、以下の点です。
- 空腹時、満腹時を避ける
- 身体を冷やさない(5分でさし湯する、脱衣は一カ所ずつ、乾燥したタオルで押さえ拭きする)
- 体調不良時は長すぎないようにする
1つずつ説明します。
空腹時、満腹時を避ける
清拭は、繰り返し体位を変えるために疲労します。そのため、空腹時や満腹時は避けましょう。血糖値の変動や胃の内容物のせいで、体調不良になりやすいからです。
身体を冷やさない
身体を冷やさないためには、お湯の温度をこまめにチェックして、5分ごとにさし湯かお湯替えをしましょう。湯音は、「5分経過すると5度下がる」との報告があるからです。ぬるいタオルで拭くと、体温の低下で負担がかかります。
脱衣はすべて一度に行うのではなく、拭く箇所だけ一カ所ずつ脱衣して、体温の低下を防ぎましょう。
また濡れたままにするのも体温が下がる原因になるため、拭いたあとは、乾燥したタオルで押さえ拭きするとよいでしょう。
体調不良時は長すぎないようにする
体調がすぐれないときには、清拭の時間が長くなりすぎないように配慮しましょう。病院で看護師が行う清拭の時間は、平均で14.5分だとの報告があります。
体調が良い場合には、後述する熱布清拭などである程度時間をかけて行うのも効果的です。体調次第で時間を調整するようにしましょう。
その他の注意点
負担の軽減以外にも、配慮したい点を示します。
- トイレはすませる
- 体調や皮膚の状態をチェックする
身体をきれいにするのであれば、直後に排泄することがないように、事前にすませておきましょう。直前にすませておけば、汚す心配することなく、リラックスできるでしょう。
また、清拭は全身状態を確認するチャンスです。皮膚に傷がないかどうか、色はどうか、褥瘡がないかなどを見ておくとよいでしょう。
清拭の手順
ここからは清拭の手順について説明します。
清拭の順番:上から下が基本
清拭の順番は、身体の上(上半身)から下方向に進むのが基本です。
- 頭・顔
- 首
- 手・腕
- 胸・腹部
- 背中・腰
- 足
- 陰部
身体の冷えを防止するためにも、衣服は清拭する部分ごとに脱いで行いましょう。
清拭の方法
ここからは、部位ごとの清拭方法について紹介します。
部位ごとに十分に温めたタオルを固くしぼって、拭いていきます。強くこすりすぎると肌を傷つけるので気をつけましょう。
頭部・顔
顔は、お湯もタオルもきれいな、最初に拭きましょう。耳やしわ、顎の下、鼻のわきなど汚れが残りやすい場所を丁寧に拭くとよいでしょう。
頭は、汚れ落ちをよくするために、事前に蒸しタオルで温めておくことをおすすめします。ドライシャンプーを使用して洗います。
手・腕
手の先から脇に向かって(身体の外側から中心に向かって)拭きましょう。マッサージするように筋肉に沿って拭いていくと、血行改善にも効果があります。
胸・腹部
胸は片方ずつ、輪をえがくように拭きましょう。胸の下は汚れがたまりやすいので、忘れずに拭きます。
腹部は、内蔵があるので、やさしく拭くのが基本です。
寝たきりだと便秘がちになる方が多いため、温めながら、腸の流れにそって「の」の字にマッサージしながら拭くと効果的です。温かさとマッサージ効果で、蠕動運動(腸が排便するように動くこと)が促されます。
背中・腰
うつぶせの姿勢は負担が大きいので、背面を拭くときは、横向きの姿勢で行います。
背中や腰は褥瘡ができやすいので、傷がないかを見ながら、やさしく拭きましょう。
陰部
陰部は、デリケートな場所であるために、可能なら自分で拭いてもらうのも良い方法です。自分でできることを増やすことにもつながります。
汚れがひどい場合は、清拭だけでなく「陰部洗浄」(ベッド上で石けんや水を使って陰部を洗い流すこと)を行うとよいでしょう。多くの病院では、1日1回などと時間を決めて陰部洗浄しています。
注意したい点は、尿道に菌が入り込むのを防ぐために、肛門は最後に拭くことです。
拭く順番や手順は、男性と女性で異なります。
男性:
陰茎(いんけい)、陰嚢(いんのう)、肛門の順番で拭く
女性:
・尿道口から肛門に向かって、一方向に拭く
(肛門の菌を尿道に入り込ませないため)
・大陰唇、小陰唇の汚れを丁寧に拭く
女性は特に、肛門と尿道口の位置が近くて菌が尿道に入りやすいのです。尿路感染などを防ぐためにも、肛門に向かって一方向に拭くのが大切です。
さらに清拭の効果を高めるには
ここからは、清拭の効果をさらに高める、熱布清拭と石けん清拭について紹介します。
熱布清拭
熱布清拭は、身体を拭く前に温めたタオルを身体にかけて、しばらくおく方法です。より入浴に近い感覚を、得られます。通常の、拭くだけの清拭では、直後から体温が低下しますが、熱布清拭であれば、しばらくの間体温が上昇することが報告されています。
熱布清拭によって見込める効果は、以下のとおりです。
・腸蠕動を促す
・血液循環を改善する
・リラックス など
(参照:看護技術のテキストにおける熱布清拭に関する記述内容の検討)
体調が良くて、さらに上記のような効果を見込みたい場合には行えるとよいでしょう。
手順を以下に示します。
・50~60度のお湯で温めたタオルを身体にかけて、上から乾いたバスタオルなどで覆う
・時間は1か所につき、10秒~5分程度
・同様にほかの場所に進めていく
(参照:「清拭」の統合的文献レビュー)
研究によって温度や時間はさまざまな報告があるため、「こうしなければいけない」と考えるよりは、「いつもより少し長めにタオルをかけて温めよう」と、ゆったり構えて行えるとよいでしょう。「便秘のときに腹部だけ」など、一部だけ取り入れる方法もあります。
石けん清拭
石けん清拭は、弱アルカリ性のボディソープなどをつけて清拭して、タオルを2回ほど替えて石けんをふき取る清拭方法です。
通常の清拭でも汚れの除去は可能ですが、より強い汚れのときに有効とされています。
どちらの清拭でも、清拭後には乾燥しがちになるために、終わったあとに軟膏を塗るなどの皮膚のケアが大切です。
(参照:清拭方法の違いによる皮膚表面 pH,汚れの除去,主観への影響)
清拭の注意点や手順を知って実践しよう
清拭は入浴できない寝たきりの方などの身体を、温めたタオルで拭く行為です。身体を清潔にするのはもちろん、血液の循環を良くする、リラックスさせる、身体を動かして拘縮を予防するなどの効果が見込めます。
効果的なケアですが、手順を誤るとかえって身体を冷やすことになり、ご本人への負担につながります。物品や環境の準備をきちんと整えた上で、手順を確認して行えるとよいでしょう。ご本人の身体の状態を維持して、気もちよさを感じてもらうためにお役立てください。